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院長のコラム「2020年を振り返ってーその1」

もう最近は恒例、年一回だけの院長のコラム更新となってしまいましたが、振り返るとこの一年ほど時の経つのが速く感じたことはなかったです。昨年の今頃、まだ世間ではコロナの「コ」の字もなく、「また中国で変な感染症が登場したらしい」くらいにしか思っておりませんでした。昨年末に書いたコラムを見ると、「オリンピックイヤーの2020年は、どんな年になるのか楽しみです。当院と患者さんにとっても良い年になるように願っています。」なんて呑気なことを書いていましたが、まさか新型コロナウイルスで世界がこんなことになってしまうとは、世界中の誰も予想していなかったでしょう。

 

2月以降の新型コロナウイルス禍については、もう皆さんご存知の通りですが、医療界も大変でした。マスク、アルコール消毒剤、手袋、防護衣などがあっという間に品薄になり、一時期は確保が大変でした。マスク、メガネやゴーグルの装着、受付にビニールカーテンを付けたり、椅子を一つおきにしか座らないようにしたり、職員や患者さん全員の検温、患者さん一人を検査、診察ごとに診察室の顕微鏡や椅子、荷物置きのアルコール消毒など、院内感染を防ぐための防御策はできるだけのことをやってきました。眼科では昔からアデノウイルスによる流行性角結膜炎の院内感染対策で消毒には慣れていましたが、疑わしい充血などの症状がある患者さんだけへの対策でOKでした。しかしながら新型コロナウイルスの厄介なところは発症2日前から、あるいは無症状の感染者でもウイルスを撒き散らしている可能性があるため、自分を含めて職員や患者さん全員が感染しているかもしれないという前提に立って、対策しなければなりません。

 

マスコミも連日のように、怪しげな情報も含めて喧伝し恐怖心を煽りまくり、患者さんも「医療機関に受診すると、ウイルスをもらってきてしまうのではないか」と疑心暗鬼になって、当院でも外来患者数は減少し、白内障の予定手術もキャンセルが相次ぎました。その反対にウイルス対策や消毒に要する時間と費用は大幅に増加して、医療機関としての経営も苦しいものがあります。経済的な苦しさは、観光業や飲食業をはじめとしてほとんどの業界でもっと大変なところがたくさんあると思いますが、何とかして感染拡大を抑え込まないと社会全体の経済の立ち直りのきっかけが見えてきませんから、我々医療界の人間の責任も重大ですが、国民一人一人が自分のできる感染対策を今まで以上にきちんとやって行くことしかないと思います(今まで日本国内で新型コロナウイルス感染者数が欧米に比べて少なかった理由「ファクターX」は、マスク着用などの規範を守ろうとする日本人の真面目さ、民度の高さそのものではなかったかと個人的には思っています)。

 

今年1年の当院の状況ですが、上に述べたように外来患者さんの減少、手術も(不要の手術はないのですが)不急と思われた患者さんのドタキャンなども多かったのですが、幸いなことに院内でのウイルス感染を疑わせる事例も全くなく、白内障手術も年間で455件と例年よりも数は減少しましたが、後嚢破損や硝子体脱出といった代表的な術中合併症は今年も0件を更新中で、多くの患者さんに良好な視力を取り戻していただきました。手術を受けられる方にも、通常の外来患者さんと比べて感染リスクが上がることは全くありません。むしろ術直後の診察は他の患者さんと動線が交わらないように朝一番で優先的に診察したり、リスクを下げる努力も以前からしておりますので、見えないことを我慢する必要は全くありませんので、安心して手術治療もご検討ください。

 

白内障手術で眼の中に入れる眼内レンズ(人工水晶体)では、近年多焦点眼内レンズ(術後に老眼鏡や遠近メガネなどをなるべくかけずに生活できるようにするレンズ)が改良されて適応が広がってきていましたが、今年度から多焦点レンズを用いた白内障手術が、厚労省が定めた「先進医療」の指定から外れました。先進医療では、技術料や眼内レンズ代金を含めた手術費用は100%自費(眼科施設ごとに積算した料金が違っていましたが、片眼で数十万円以上)でしたが、ご自分で「先進医療特約を付けた生命保険」に契約されている患者さんには生命保険会社が自己負担分を全額払ってくれていました。今年度から、多焦点レンズは「選定療養」という制度の扱いになりました。単純に言えば、技術料を含めた手術代などは健康保険適応の単焦点眼内レンズと同じ保険点数で(1-3割自己負担)、単焦点と多焦点のレンズ仕入原価の差額は患者さんが払ってください、ということです。要するに、総合病院に入院するときの個室や差額ベッド料金みたいな扱いで、贅沢なものを選んだ場合はそこだけ自費で十割負担してくださいというシステムです。先進医療から外れる直前の3月には、「先進医療特約付き」の生命保険を使って自己負担ゼロで多焦点眼内レンズを入れて欲しいという患者さんの駆け込み需要もありましたが、選定療養となった後も数%の患者さんには自己負担があっても使いたいという需要はあり、当院でもご要望にはお応えしております(全ての患者さんにこれが適しているわけではありませんので、ご希望の方は相談してください)。

 

患者さんの受診控えに関しては、非常に残念なこともありました。非常にまずいなと感じたのは、継続治療が非常に重要な緑内障や加齢黄斑変性を代表とする慢性疾患の患者さんが、自己判断で通院治療を中断してしまっているケースです。特に緑内障の患者さんには、初診時に必ず皆さんに説明している(なんて書くと「ワシは聞いてないぞ」と言う方が必ずいますが、それは間違いなく患者さんがお忘れになっているだけです)ことが、(1)緑内障は日本を含めてほとんどの先進国では40歳以上になってからの中途失明の原因のトップであること、(2)治療(眼圧を下げること)を開始して治療が成功しても、それは進行が止まるということであって、治療開始時に失われている視野は戻ってこないし、治療してもゆっくり進行するケースもしばしばあること、(3)治療の最終目標は命の寿命がくる前に中心視野が失われて失明しないように最後までなんとか持たせること、(4)いまは自覚症状で気が付いていなくても、自分で視野が狭いと感じる頃には既に失明寸前の末期緑内障になっていることが多いことで、だから通院や治療を絶対に中断してはいけないという点です。今週の年末の外来でも数名、「コロナが怖くて通院できなかった。点眼も切れている」と問診に答えている緑内障患者さんがおられました。コロナが理由の方は最長1年、「全身疾患の治療が忙しくて受診できなかった」ということで5年も通院中断していた方もおられました。そういう方の多くは70歳代後半以降のご高齢者です。残念ながら緑内障と白内障の進行で相当視力と視野が悪化している方もいました。白内障で低下した視力は多少手術時期が遅くなっても手術で取り戻せますが、緑内障で落ちた視力はもう戻りませんし、このまま長生きされると生きてるうちに失明するかもしれません。今年最後の外来では、「〇〇さん、あなたね、コロナが怖くて通院も点眼もやめていた、って言われたようですが、コロナで早死にするのと、今後ずっと失明して生きて行くのとどっちが怖いですか?失明は怖くないんですか?」と思わず語気を荒げてしまいました。ホントにこういうことが続くと、「コロナの馬鹿野郎!!」と穴を掘って叫びたくなります。

 

長々と愚痴のような最後のコラムになってしましましたが、2021年にもまだ新型コロナ禍は簡単には終息しそうにありません。ワクチン接種に多少なりとも効果が出ることを期待してはいますが、本当に東京オリンピックが来夏に安全に開催できるのか、大変疑問です。新型コロナ禍以前の日常生活には当分戻れないでしょうし、不要普及の移動や対面での会合など避けてなるべくオンラインにしましょうとか、もう社会構造自体がこのまま変化して行って、違う日常風景になって行く可能性も高いと思っています。明けない夜はありません。来年は遥か彼方にでも、明かりが見えてくる1年であって欲しいと願っています。

 

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