院長のコラム

日本の医療って、どうなんでしょう??-その2-

もうすぐ総選挙です。小泉首相は、郵政民営化のみを選挙の争点に掲げていますが、他の政党や一般の方の中には、「もっと大事な改革がたくさんあるでしょうに」という声も多く聞こえます。先日のニュースの中にも、予想よりも早く日本の総人口が減少に転ずるという事がありましたが、やはり今後ますます進行して行く高齢化社会の中で、年金、医療、福祉などの社会保障制度改革の方が、国民の関心も高い、最重要問題ではないでしょうか。

今までの小泉内閣が進めて来た、そしてこれからさらに進めようとしている医療改革には2つの特徴があると思います。ひとつが、高齢化に伴って当然増加して行く医療費総額をとにかく押さえたいということ、ふたつ目が公的負担を可能な限り圧縮し、患者負担を増やし、公的保険から民間の医療保険にシフトさせるための規制緩和(混合診療の導入)です。これらの「改革」を進めるとどうなって行くのか、その答えは既に外国の例に見る事が出来ます

日本医師会が発行する“日医News”の中に、日本医学会総会でのシンポジウムでの講演(日本福祉大学・近藤教授)の内容が掲載されています。非常に興味深い内容でした
http://www.med.or.jp/nichinews/n170420j.html)ので、興味のある方は一読をお勧めします。

イギリスの医療の荒廃ぶりについては、私もいろいろな機会に何度も聞いた事があります。眼科では非常に日常的な白内障手術でさえ、手術適応と診断されて手術申し込みをしてからの平均待機期間が1年半を超え、待機中に見えなくなって転倒事故が増えたり、非常に問題になっていたそうです。上記の論文を読むと、1970年代のサッチャー政権時に始まったイギリスの医療改革は現在の日本でオリックスの宮内さんの“改革会議”の主導でやられようとしている日本の状況と非常に似ていて、20年以上遅れてイギリスと同じ失敗をまた日本で再現する気か?と、気が重くなってしまいます。

また、アメリカの医療の場合はイギリスと違うのは総医療費が高いのに無保険者が4000万人もいて、医療の平等性が著しく低い(貧富の差が激しい)点だと思いますが、前出のオリックス宮内氏は、彼が盛んに導入を主張していた“混合診療”という制度について、「国民がもっとさまざまな医療を受けたければ、『健康保険はここまでですよ』、後は『自分でお払いください』というかたちです。金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」(週刊東洋経済2002年1月26日号)と説明していて、ある意味ではアメリカ的です。それがもたらした結果については、前出のシンポジウムで前ハーバード大学助教授の李先生が述べられていますので興味のある方はお読みください
http://www.med.or.jp/nichinews/n170520h.html

日本の医療システムは、日本国民が思っているほど悪くないのです。というより、殆どの国の国民から見ると、うらやましい制度なんです。「医療改革」が必要なのは、社会の高齢化に伴って当然増加して行く医療費を、如何にして捻出するか、財源をどう確保して効率よく配分して行くかという点で今のシステムの改良が必要だという事であって、無理矢理に医療費総額を押さえつけて質を落としたり、金のある人だけが長生きを許される社会に変えて行くためではないはずです。

どうも小泉首相の医療改革は(医療だけではないかもしれないですが)、経済人の意見ばかり傾聴されて、現場の意見の尊重や諸外国の失敗例の研究が不十分のようです。さてさて、選挙結果はどうなるのでしょうか。

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