2006年2月1日
いわゆる「医療費」は、健康保険を使って病院・医院にかかる限り、全国一律の料金表で決められています。これが診療報酬というもので、2年ごとに改訂されますが、今年がその年に当たります。近年の日本の国家財政の赤字のために『聖域なき財政改革』ということで、すでに昨年のうちに「全体として3.16%下げる」ということに決定されています。
財政が破綻したのは、医療費が膨れ上がったせいではなく、既に多くの方が述べているように、むしろ日本では諸外国と較べて圧倒的に低費用で高レベルの医療が提供されているのに、今までの失政(景気刺激策として繰り返されて来たが効果のなかった公共事業など)のつけを今になって医療費にも回そうとしているのが、医療関係者の一人としては腹立たしくてなりません。
まあ、しかしながら時代の流れという面で仕方がないなと、正直感じることもあるのですが、マスコミの論調を見ていると、いつも医師会などが意見を述べると自分の既得権益を守るために主張している、という見方ばかりされるのも非常に腹立たしい限りです。
1月30日の朝日新聞の社説に『診療報酬 患者の側に立って』と題した文章が掲載されていました。その中で薬について述べた部分がありますので以下に抜粋します。
『後発医薬品の扱いも意見が対立している。後発医薬品は、新薬の特許切れのあと新薬と同じ成分でつくられる。安い後発医薬品があるならば、それを使おうという支払い側に対し、日医は従来の薬も使えるようにすべきだと主張する。
効能が同じなら安い薬を使うのは消費者の常識だ。高い薬を使いたいというのは、その方が利益が上がるからなのか。そう思わざるをえない。高い新薬をあえて使いたい患者がいるならば、その差額は患者が自分で別に負担すればいい。』
最近、テレビコマーシャルでも『ジェネリック医薬品』という言葉をお聞きになったことが皆さんおありだと思います。そのコマーシャルの中でも「同じ成分で同じ効き目で安い」と強調されていますが、これが本当なら誰だって安い方を使ったらいいのに、となるでしょう。しかし、我々医師からすると、「同じ成分で同じ効き目」とは信じられないことがよくあるのです。内科の先生に聞いても、「A社の先発品(最初に認可されたメーカー品)から、B社の薬に変更したら、倍のmg数投与しないと同じ効き目が出ない」とかいう話はざらに聞きます。我々眼科医の使う点眼薬でも、効き目の違いを実感することがよくありますし、何より副作用の率が各社で違うのです。これは、先発医薬品と後発医薬品では中身が同一ではないからこういうことがよく起こるのです。点眼薬でも、よく調べてみると、主成分は同じでも(この“同じ”ってのも怪しい時がありますが)、添加物が違うんです。防腐剤などの添加物の種類や量がメーカーによって違うために、点眼薬がまぶたに付着した時のアレルギーなどの副作用が、メーカーによって発生率に大きな差が生じます。
先発医薬品、いわゆる新薬が発売されるときには動物実験から始まって正常人に対する試験、患者に投与してみる臨床治験など発売されるまでに非常に厳しく長いテストが課せられています。薬の添加物を変えたりすると、薬物相互作用などで効き目にも差がでないとは言い切れなくなるのですが、後発品には臨床治験が行われていません。主成分がおなじで、認可を受けている添加物を使っているからと、メーカーの書類申請で認可されるので、特許料がいらないだけでなく膨大な治験費用がかからず、これも後発品が安くなる理由になっているのです。
ジェネリック医薬品を簡単に信用してはいけないというのは、日本だけでなく世界の医師の常識です。眼科ではアメリカでも数年前に白内障術後の非ステロイド系消炎剤点眼の使用で角膜潰瘍という重大な副作用が問題化したことがありましたが、ある特定のジェネリックメーカーのブランドにのみ集中しておこっていたことが判りました。アメリカでは、州によっては医師の処方箋を薬剤師が後発品に置き換えることが許されていますが、アメリカの眼科医たちは「これは効いてもらわないと困る」という重症例では「Don’t substitute!(置き換えるな)」と処方箋に書き添えるそうです。
医師側に常に批判的なことで有名な朝日新聞は「高い薬を使いたいというのは、その方が利益が上がるからなのか」と勘ぐってくれていますが、実際は後発品の方が薬価差益(仕入れ値と売値の差)が出ることも多いので、院内処方では後発品を使うところも多いのです。
医療はやはり安全第一と思います。安いからという理由で、安全性や効き目に少しでも疑問があるものは使いたくないものです。もちろん、すべての後発品が悪いとは言いませんし、私も使ってみて問題のないものは患者さんの負担が少ない方を選んでいます。しかし、先発品を使いたい時はその理由がちゃんとあるからであって、利益を上げたいとかそういう低次元の話ではないということを皆さんご理解いただきたいと思います。