2006年3月1日
今回は全く医療に関係ないお話ですが、、、。
あっという間に3月になり、トリノ冬季オリンピックも終わってしまいました。先週ぐらいまで、『テレビの見過ぎで目が疲れました』という訴えで受診される患者さんが日に数名はおられましたが、日本のメダルが少なかったにもかかわらず、皆さん結構深夜のテレビ中継をご覧になっていたようです。
私も日本人のメダルが期待されていた競技や女子カーリングなど、かなりテレビ中継を見ていた一人なんですが、やっぱり一番印象深かったのは女子フィギュアスケートの荒川選手の金メダルでした。なぜ印象深かったのかというと、日本人唯一のメダリストというだけでなく、勝利の陰にドラマがあるからだと思います。
荒川さんは16歳の時、長野で五輪デビューを果たしましたが、前回のソルトレークでは代表に選ばれず、一昨年の世界選手権で王者になるも昨年は惨敗、と波瀾万丈の競技人生でした。採点基準も変わり、得意技の「イナバウアー」も点数がつかなくなり、引退も考えたそうですが、
『このままじゃ終われない』
という思いが競技生活続行を決意させました。その後、15歳の浅田真央さんに破れて再び自信が大きく揺らいだそうですが、
『何かを変えなければ、、』
との思いで、自らの意思でコーチを変え、曲目を変え、「イナバウアー」も演技に復活させて望んだ、まさに競技人生の集大成の大会だったわけです。競技者としてのプライドを賭けた闘い、上位のライバルの失敗という運まで味方にしたサクセスストーリー、とこれ以上ないドラマがあったからこそ、これほど日本中を感動させたのだと思います。
このドラマのキーワードは、『このままじゃ終われない』『何かを変えなければ、、』だと思います。このキーワードに彩られた今回の荒川さんの快挙は、何となく閉塞感のある今の社会において、現状や将来に行き詰まりや不安を抱えて立ち往生している若者たちにとって、自力で未来を切り開く一歩を踏み出す勇気を示してくれたのではないでしょうか。また自分の人生の中で自分なりのサクセスストーリーを持っておられる年配の人にも、このキーワードを過去の自分の人生に重ね合わせて共感を覚えた人も多いのではないでしょうか。
しかし、この手のスポーツドラマ的なストーリー、私も含めて日本人は大好きですよねー。スポーツに対して、あくまでもストイックに、求道的に自らの肉体と精神を鍛錬するアスリートに武士道的なものを感じるからでしょうか。練習や試合の前後に無人のグラウンドに対して一礼する高校球児が日本人に受けるのも、同じような理由からではないでしょうか。
トリノオリンピックで、私にはこれと対照的に見えてしまって違和感を感じたのが、スノーボードのHP(ハーフパイプ)でした。前評判の割にトップグループのアメリカ選手たちとあまりに実力差がありすぎて、新聞などの論調も批判的でしたが、批判を浴びた理由の一つは、彼らの外見・言動が従来の日本人好みのアスリート像からかけ離れていたせいではないかと私は感じています。スノボの競技人口が若いためでしょうか、メダリストのアメリカ選手たちも本番で滑り始める前にiPodをポケットから取り出して操作し、好みの音楽を聴きながらスタートするのにはちょっと驚きました。彼らもあのレベルに達するまでに血のにじむような練習を積んでいるのだとは思いますが、選手たちのヒップホップ的なライフスタイルが今までのストイックなアスリートのイメージとは全く異なること、これが私が感じた違和感の原因のように思います。
同じような理由で、最近よく日本のオリンピック代表選手が、「オリンピックを楽しんできたい」というコメントを述べるのにも、すごく違和感を感じます。国の代表として派遣されてんだから、「楽しんできます」なんて言わないで、「死ぬ気で勝ちに行きます」ぐらいのことを表向きは言って欲しいなと思うのは、私が古い人間だからでしょうか。
今年は、大きなスポーツイベントが目白押しで非常に楽しみです。野球ではWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)がもうすぐ始まりますし、サッカーのワールドカップ・ドイツ大会もあります。いずれも日本代表チームの活躍が期待されていて、盛り上がりそうです。またまた寝不足、疲れ目の人が増えそうですね。