院長のコラム

恐るべしテレビの威力

私の好物の一つに『納豆』があります。私は朝食に関しては和食党で、ほっかほかの白米、おだしの利いたみそ汁、小粒納豆の一パック、出来れば白菜か広島菜の漬け物でもあれば、あとは何もいらないといった感じです。広島県人は元来はあまり納豆を食べる習慣はなくて、私も大学入学までは食べたことがありませんでした。大学生になって夕飯付きの下宿暮らしを始めてから、部活で遅くなった時なんかに誰かに既におかずが食べられてしまって、ご飯と納豆とイカの塩辛ぐらいしか残っていないーなんてことが時々ありました。納豆も塩辛も匂いのきつい食べ物で、なかなか取っ付きにくいのですが、もう腹ぺこ状態のときにほかほかの丼飯にこれらをぶっかけてがつがつ食らうと、これ以上にうまいものがあっただろうかという感じで、それ以来の大好物です。

先週の日曜日(1月7日)にテレビを何気なく見ていると、『発掘!あるある大辞典』で面白いダイエット方法が紹介されていました。

http://www.ktv.co.jp/ARUARU/search3/aru140/140_1.html

 

それがなんと納豆を、1)1日に2パック、2)朝晩1パックづつ、3)よく混ぜて20分放置してから、食べるだけで痩せていく、というものでした。納豆に多く含まれるイソフラボンがDHEA(副腎皮質ホルモンの一つ)を増加させ、これまた納豆に多く含まれるポリアミンとの相乗効果で基礎代謝を増し、ダイエット効果を生み出すというものでした。

 

番組を見ているときには、『大好物の納豆を食べるだけでダイエットできるのなら、こんなに楽なことはない』と思いました。番組のあとで家内に『テレビで納豆ダイエットってのをやってたんで、売り切れになったら困るから明日買っておいてよ』と頼みました。ところが、なんと既に翌日の近所のスーパーの納豆売り場は、すべての銘柄が一つ残らず売り切れで、見事にからっぽになっていました。納豆の食習慣があまりない広島でこの状況なら、関東とかはすごいことになっているのでは、と思いましたが、先日の新聞によると、やはりこの番組のあと全国的に納豆が売り切れ続出で生産が追いつかず、メーカーがお詫び広告を出したりしていました。それから1週間、今日になってもスーパーの納豆売り場はまだ見事にからっぽで、品切れのお詫びのビラが張ってありました。

 

この番組でもそうでしたが、この手の健康番組では実験と称して数名があるものを1、2週間食べ続けて「たった2週間でこんなに痩せました」なんて、あたかも夢の食品のように報告されるという手法がよく取られます。しかしながら、医学・生物学系の研究をかじったことがある人であれば、このような実験方法自体に客観的な信憑性が乏しいことにすぐ気がつくはずです。新薬の発売前の臨床治験では、二重盲検法といって、年齢、性別がほぼマッチした2グループに片方は本物の薬、もう一方にはプラセボ(外見で判らない偽薬)を、飲まされる側も経過を診察して行く医師もどちらが本物の薬か知らされないまま一定期間投与して、比較検討するという方法がとられます。『鰯の頭も信心から』なんて言いますが、『効く!』と信じ込んで使っていると、不思議なくらい偽薬でも効くことがあるんです。食品の場合は見た目や味で判るので、厳密な二重盲検法は困難ですが、せめて納豆の実験前後でのカロリー摂取量の厳密なコントロールぐらいは必要です。テレビの取材だから、と間食を少し控えたり、納豆嫌いな人だと嫌いなものを食べ続けたせいで食欲が落ちてカロリー摂取量に変化が出ている可能性もあり得ますからね。それにたった2週間というのも実験期間としてはあまりに短かすぎます。逆に2週間で全員が2~3kgも体重が落ちるのが本当だったら、効き目が強すぎて怖い(副作用も心配)です。

 

以下のリンクを見ていただくと判ると思いますが、健康食品としての納豆の効果は今までに何度もNHKや民放で取り上げられて来たようですが、科学的な信憑性に関してはまだかなり異論もあるようですし、今回のDHEAの効果に関しても動物実験のデータが主で、人体に関しては未だ良く判っていない部分があるようですので注意は必要です。ワーファリンという薬を飲んでいる人には禁止されている食品だというのもよく知られている話です。

 

http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=563
http://www.srf.or.jp/histoly/frames/history-frame13.html
http://www.genpaku.org/skepticj/dhea.html

 

『あるある』とか、みのもんたの『おもいっきりテレビ』などで、緑茶だ、寒天だ、ラズベリーだ、ココアだ、などなど特定の食品等が体にいい、と放送されるたびにしばらくの間、売り切れが続くような事態が繰り返されます。世間のおばちゃんたちは、かかりつけの医者の言うことより、みのもんた氏の言うことのほうを良く聞いてくれるような感じです。テレビ番組を作っている人たちは、自分たちの持っている影響力の大きさに、もっと責任を感じて欲しいと思います。医学論文のような厳密さをテレビ番組にも求めたいとは言いませんが、せめて反対の意見も伝えるとか、いい面ばかりでなく危険性にも言及するとかの配慮は欲しいところです。

 

今回の番組では『納豆をこの方法で食べ続けると2週間で痩せる』と強調してましたから、この納豆の品切れ騒動もたぶん2週間ぐらいたって『なんだ、痩せないじゃねえか』っていう人が出てくると落ち着いてくるのでしょうが、うちの冷蔵庫の納豆ストックも明日ぐらいで底をつきそうで、私のような以前からの納豆好きにとっては迷惑な話です。

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