院長のコラム

後発医薬品ふたたび

1年ぐらい前のコラム(http://www.furue-nakano.com/column/2006/02_01.html)で後発医薬品のことについて一度書きましたが、厚労省はとにかく医療費を抑制するために何が何でも後発医薬品を無理矢理使わせる方向へ持って行きたいようです。

 

06年の診療報酬改定時に医薬品の処方箋の様式が変更になっており、現在は「後発品への変更可」という欄にチェックすると調剤薬局で後発品への変更が選べるようになっています。しかしその欄にチェックがされて、更に実際に後発品が処方されたのは1%未満だったとのことで、厚労省としては次の手を考えているようです。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070422ik01.htm

 

しかしながら、無理やり後発医薬品を使わせようとする前に、なぜ1%未満だったのかを考えてみて欲しいと思います。医師も薬剤師も後発品を信用してないからです。先日、以下のような記事を見つけました。長いですが引用します。


昭和大・内田教授 後発品、「先発品と同じ薬」は誤り

日刊薬業2007/05/21

 昭和大医学部第二薬理学の内田英二教授は17日、東京都内で開かれた国際治療談話会例会(日本国際医学協会主催)で講演し、後発医薬品の普及に向けて、業界の信頼性確保など8項目にわたって提言した。

 内田教授は、業界や企業は「後発品は新薬と同じ有効成分で効能・効果、用法・用量が同一」「品質の違いはない」などと説明しているが、必ずしもそうとは言い切れないと指摘。「先発医薬品と同じ薬であるという誤った認識を是正する必要がある」と述べ、適正な情報を隠さず社会に提供すべきだと主張した。

 内田教授は講演で、先発品と後発品をさまざまな観点から比較しながら、後発品の問題点を説明した。先発品の適応症がない後発品は、「わたしが調べた限り40種類以上ある」と問題視。また、ロキソプロフェンナトリウムの後発品のうち3品目は、添付文書に記載された薬物動態パラメーターが全く同じだったことを指摘し、「臨床薬理学的にみて、そんなことはあり得ない」と疑義を示した。

 その上で、申請時に提出する溶出試験、生物学的同等性試験の薬物濃度測定は、GLP対応の第三者外部機関で行い、データの信頼性・透明性を確保することを提案。市販後は、公的機関が申請時データに基づき、定期的に品質保証を行うよう求めた。添加剤・不純物・残留溶媒の情報公開の義務付けも必要としたほか、財務省に対しては、厚生労働省が適正な後発品政策を実行するために、必要な予算を配分するよう訴えた。

 同日は、東京慈恵会医科大第三病院内科学・臨床検査医学の大西明弘助教授も講演した。後発品処方を原則とし、例外的に先発品を使用する処方せん様式への見直しが浮上していることについて、「変更すると臨床現場が混乱する」と否定的な見方を示した。また、「後発品企業は300社以上あるが、せいぜい数十社にしてきっちりした製品をつくってほしい」と述べた。


判りやすく言えば、後発医薬品は新薬とは成分が違う、また、認可の根拠になっている試験データが信用できないということです。上記の生物学的同等性試験というのは、薬剤を人間に投与し、その後時間を追って何回か採血をし、原薬の血中濃度が先発医薬品と比べて80~125%の範囲内にあればOKということになるのですが、違う会社が別個に行う試験で数字がまったく同じってのは、奇跡でもない限りおかしい(捏造データ?)と思うのが普通です。

 

また我々眼科医が一番使う点眼薬の場合は、一滴の薬剤がごく微量であるため血中濃度の測定が出来ません。そこで後発医薬品の点眼剤では、動物の目に生じた病気に対する「効き目」を調べて血中濃度測定の代替としています。しかし、この方法では有効性はある程度検証できても、人間での長期使用の安全性はまったく確認できません。にもかかわらず、後発医薬品では、人間に長期投与して安全性を確認する臨床治験が行われていないのです。

 

最近のテレビコマーシャルなどでは、後発医薬品のことを格好よく『ジェネリック医薬品』なんて呼んでイメージを良くしようとしているようですが、日本の『後発医薬品』はアメリカで言われる『ジェネリック』とは違います。アメリカでは原則として、添加剤を含めて成分がすべて先発品と同じでなければ後発品として認可されません。しかし、日本ではアメリカと違って原薬が同じとしても、安定剤、防腐剤などの添加物が先発品と全く違うものが多く使われています。ですから、中身も、効き目も、安全性も『同じではない』のです。この状況で、アメリカ並みに4、5割も後発品を使えって言う方が無理っていうものではないでしょうか。

 

医療費が安く上がれば、安全性に疑問があってもいいんでしょうか?後発医薬品を使わせたければ、厚労省もまずは医療関係者を納得させるだけの安全性確保のためのルール作り、情報公開など、先にやるべきことがまだまだあるのではないでしょうか。後発品メーカーに対しても、テレビコマーシャルを打つ予算があるんだったら臨床治験をちゃんとやってからにしたら、と言いたいところです。

こんなことを書いていると朝日新聞的な疑り深い方からは、『どうせ値段の高い先発医薬品を使った方が、医者の儲けが多くなるからでしょ!』と勘ぐられるかもしれませんので、はっきり申し上げておきます。当院は100%院外処方箋ですので、どの薬を処方しても健康保険の処方箋料は決まっていて、むしろ厚労省の『アメ』として後発医薬品を含む処方箋料が現時点では2点高く設定されているので、後発品を含む処方箋を発行するたびに当院の収入は20円増えることになるのです。院内で薬を渡されている医院でも、薬価の安い後発品の方が納入価が更に安い場合が多く、差益(儲け)は後発品の方が多い場合が多いので、医者の『儲け』も後発品の方が実は多いのです。それでもなお、積極的に使われていない、その理由を皆さんも考えて欲しいと思います。

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