院長のコラム

医者が患者になった時:結石は忘れた頃にやってくる

最初は16年前、私が新婚1年目の夏頃でした。日曜日の昼過ぎに上腹部に絞り込むような痛みが、、。当時は大学院を修了して神戸中央市民病院へ赴任したばかりで、毎朝7時過ぎに家を出て、外来の診察を昼休み10分のカップラーメンだけで片付けて昼過ぎまで行い、手術室に直行して予定の手術が夜中の11時頃まで続き、さらに帰宅後に緊急で呼び出されることすらあり、非常にストレスの多い日々が始まった頃でした。『胃潰瘍でも出来たのかな』と思いましたが、ついに我慢できなくなり、当時住んでいた尼崎市の休日救急診療所へ。兵庫医大からの若い内科のDr.に診てもらいましたが、痛みは強くなるばかり。『原因がよく判らないんで精密検査をした方がいいですね。眼科の先生ですか?ああ、神戸中央市民?じゃあ、先生の病院へ転送します』ということになってしまい、その場から救急車で搬送されるはめになってしまいました。

 

 実はその2週間前に、妊娠中の家内が真夜中に腹痛を訴え、近所の産婦人科医院からやはり神戸中央市民病院へ救急車で転送され、緊急入院(結局、単なる食あたりの腸炎だったのですが)なんてことがあったばかりでした。夫婦揃って続けて救急外来へ搬送され、しかも病院関係者はベッドが空いてないと、いつも大体空床のある感染症隔離病棟へ入れられるので、看護婦さんからは『あれー?!またですかー。今度は攻守交代で?』と、呆れられてしまいました。

 

 最初は消化器内科の主治医でしたが、ファイバー(胃カメラ)飲んでも何もなし。エコー(超音波断層検査)でも特に何もなさそうで、『ついでに腎臓も見ときますか、あれー、水腎になってるよ、先生!』ってことで尿路結石と診断がつきました。左の尿管結石でしたが、私の石は単純撮影で写りにくいみたいで、入院時の腹部単純X線では見逃されていました。

 

 すぐに泌尿器科へ主治医交代となり、『先生、運がええよー。ちょうど最新式のESWL(体外衝撃波結石破砕)の手術装置が入ったところ!先生が3例目だけど、やりましょう!』ということで、『痛くないですよ~。』という言葉を信じて、“3例目”という言葉にビビりながらも手術台に、、。ところが、結構石が硬かったのか、目一杯パワーを上げて行って、2000発近く打っただろうか、結構、ズシーンとした痛みもあって、我慢も限界!。『う~ん、石にヒビは入ってるから、あとは自然に出しましょう。』ということで、その晩はラシックス(利尿剤)入りの点滴を連続3000mlも入れっぱなしで、コアグラ(血の固まり)まじりの血液そのもののようなドロドロの尿を出しながら、一晩中ガラガラと点滴台を引っ張りながらトイレに通いました。部屋の中にトイレがある感染症病棟の個室でよかったと初めて思いました。

 

 その後一度も発作を起こすこともなく、時々検尿はしていましたが、いつしか潜血も出なくなり、もう大丈夫と思い込んでいました。

 

 前置きが長くなりましたが、あれから16年、今年7月初めの朝3時頃、右上腹部痛で目が覚めました。しばらく寝返りを打ったり、体位変換してみたりしましたが、痛みは増すばかり。実は今年の春先にも、日曜日に右下腹部痛で(自己診断では虫垂炎かと思って)日曜当番医を受診し、結腸憩室炎と診断されたことがあるのですが、その時とは痛みの程度が比べものになりません。16年前の尿管結石の時よりも更に激痛で前とは場所も異なり、『こりゃ、胆石の疝痛か、憩室が破れてパンペリ(汎腹膜炎)でも起こったのか』、と不安になってきました。

 

 う~ん、と唸っていたら嫁さんが目を覚ましました。脂汗流してもがき苦しんでいたら、『救急車呼ぼうか?』ということに。車まで歩けそうもなかったので、背に腹は代えられず、恥を忍んで119番してもらいました。朝4時頃に舟入病院へ搬送され、外科の先生に病歴を言ったところ、『尿管結石でしょう』とのことで、鎮痛剤の座薬を入れられました。『でも、16年前とはちょっと違う痛みなんですけど、、。』と呻くと、『まあ、一応CT撮ってみますか。』ということになりました。実はCTは自分が撮られるのは初体験で、短時間だったはずですが、痛みの中でじっとしているのは、案外長く感じてしんどいものでした。結果は、やっぱり外科医の診断どおり、右の尿管結石でした。CTにしっかり石が写ってました。水腎にもなっていて、反対側の腎盂にも石が、、、。『じゃあ、近いうちに泌尿器科にかかってくださいね。』と言われて、朝6時頃には座薬も効いてきて『お騒がせしました』とタクシーで帰宅しました。家では息子たちは親が救急車で運ばれたことにも気がつかず、まだグーグー寝ていました。私も、座薬だけでほとんど痛みも引いてしまい、安静も必要ないので、いつも通り診療に出勤しました。翌日も日帰り白内障手術の予定が8例組んであったので、疼痛発作予防のために手術前に座薬を入れて、気持ちキュッと肛門を締めながら無事に手術を行い、午後に中学・高校の同期で泌尿器科開業医の先生に診てもらいました。やはり私の石は単純X線写真では写っていないステルスのような石だったのですが、『CTで見ると、直径5mm以下っぽいから、内服(ウロカルン+スパスメックス)で保存的に様子みようか』ということになりました。やっぱりいざという時に専門医の同級生がいると心強いものです。おかげで、石はいつの間にか出てしまったようで、次週の再診時には水腎症も治っていました。

 

 その後、医師会の会合などで色んな人にこの話をしていたら、『実はボクもね、、』という人が多く、尿路結石経験者がこの業界には多いということが判りました。 疫学的には生涯罹患率は男性で9%、女性で3.8%だそうですから、男の約11人に一人は生涯に一度は結石が出来る訳で、決して珍しくない病気なんですね。でも、仕事中に水分を取る時間もなく、食事時間も不規則になりがちな我々の仕事は、結石持ちにはあまりよくないようで、生活習慣病みたいなものだそうです。 こまめな水分補給や早めの夕食など、泌尿器科主治医の先生のご指導はその後もほとんど守れていませんが、「ビールはプリン体が多くて良くない」との指導だけはなるべく守って、暑かったこの夏は、なるべくシャンパンや白ワインをがぶがぶ飲むように心がけました(さすがに単なるお水を2リットルも飲むのは不可能かなと、、、)ので、酒代が多くかかりました(笑)。

 

 さすがに今回は16年ぶりということで、自己診断もできずに慌てて救急車を呼んで、救急隊や舟入病院の先生方にもご迷惑をおかけしてしまいました。普段から軽症の患者さんが安易に救急車を使うことを批判している側なのに、全くお恥ずかしい限りです。あれから以後は、自宅の冷蔵庫にも非ステロイド系消炎鎮痛剤の座薬を常備しています。次がまた16年後なら良いのですが、、、。

 

(広島市医師会たよりの依頼原稿から小改変しました)

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