2007年10月29日
今日、ちょっと話題になっていたマイケル・ムーア監督の映画『シッコ SiCKO』を観てきました。映画の概要についてご存じない方は、Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%B3)などでご覧ください。医療関係者としては非常に面白い内容でした。アメリカの医療保険制度の問題点を強調するために、カナダ、フランス、イギリス、キューバなどの国民皆保険制度と対比させていましたが、『アメリカ以外の国の制度の良いところばかり強調して問題点にはあえて触れていないのでアンフェアだ』という批判も一部にはあるようです。しかしながら私はこの映画を観て、以前から感じていたことを再度、確信しました。
それは、『医療(社会保障)を営利企業に任せると、必ず腐敗する』ということです。
全世界的にみると、アメリカは医療保険を民間営利企業主体にしてしまった珍しい国です。ムーア監督は、そのアメリカ型医療改革が何をもたらしてしまったか、赤裸々にドキュメンタリー映像で描き出してくれました。営利企業が医療保険を扱うと、やはり彼らの目的は利益を上げることですから、収入を増やして支出を絞って、会社に利益を残すということが美徳ということになります。ですから映画の中で描かれていたように、保険料を払わせるだけ払わせておいて、いざ病気になった時には、加入時に既往症を告知していなかったとか、実験的治療なので支払えないとか、いちゃもんを付けて支払わない、ということが当たり前に行われる訳です。日本でも介護の分野でコムスンの問題がありました。TVコマーシャルを打ちまくって加入者を集めて収入を上げ、実際にはサービスを削ったり不正請求で利潤を追求していたのは皆さんご存知の通りです。
今、昼間にTVを見ていると、やたらに外資系を中心とした医療保険のCMが多いと思いませんか? CMでは、『任せて安心、、、』とか、『糖尿病や高血圧の既往症が合っても、OK』とか、『60歳以上の方でも、月々たった○○円でいざというとき入院一日5,000円』とか、ホンマかいな、というような謳い文句で医療保険を買いませんかと誘ってきます。でも、考えてみてください。いかにも医療費がかかりそうな、60歳以上で高血圧や糖尿病があるような人を医療保険に加入させて、いくらも保険料を払わないうちに病気で入院となった時、営利企業の保険会社が、すんなり給付金を払ってくれると思いますか?アメリカで起こっていることは、人ごとではないのです。
何ヶ月か前に『医療保険の原価率』というのが発表されていました。要するに皆さんが支払った保険料の何%が実際の支払いに回されていたか、というものですが、なんと各社とも20~30%なんですね
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E9%99%BA%E9%87%91%E4%B8%8D%E6%89%95%E3%81%84%E4%BA%8B%E4%BB%
(http://www.hoken-erabi.net/seihoshohin/goods/9228.htm)。
やっぱり営利企業がやっている限りはそんなものなんです。皆さん、おかしいと思いませんか。『公的保険がパンクしそうだ』とさんざん脅かして、高いお金を払わせて民間の医療保険を買わせておいて、実際に病気になった時には払った額の2~3割しか返ってこないんですよ。いかに問題があったとしても、その保険料が公的な保険に使われていたとしたら、実際の医療費にほとんど還元されていたはずです。なぜ『規制改革・民間開放推進』をやってわざわざ公的保険を縮小して、効率の悪い民間医療保険にシフトさせる必要があるのでしょうか?喜ぶのは保険会社の経営陣だけではないですか。こんなことを考えていると、やっぱり『小泉改革』って、アメリカの(経済界の)外圧に誘導されて、日本が食い物にされているだけなのではないか??と勘ぐってしまいますが、どこか間違っているでしょうか。
来年から高齢者医療制度も大きく変わりますが、国民の皆さんはたぶん大多数は内容を理解されていないのではないでしょうか。要するに75歳以上の医療にお金がかかる高齢者を、現在の医療保険から切り離して、別制度を作ります、ということです(http://genkiayumu.exblog.jp/3084415/)が、非常に判りにくい制度です。でも、目的としていることは高額の医療費がかかる高齢者医療を別制度に切り離して、最終目標は高齢者の医療費を抑制したいということです。これもどう考えてもおかしい!『保険』というのは、『皆がお金を出して、今困っている人を助けましょう。いざ自分が困った時にも他の人の保険料で助けてもらえますから。』という制度でしょう。お金がかかることが最初から判っている高齢者だけ集めた『保険』が成立するはずがありません。最初はなんだかんだ言って、税金を投入したりして批判をかわすでしょうが、最終的には税からの給付を徐々に絞って、病気の高齢者が医療を受けられないという事態になるのが見え見えです。総選挙が近い将来ありそうだという今になって、急にこの新制度の『凍結』なんていう話が出てきているのも、あまりにも政治家の魂胆があからさまに見えて浅ましさを感じます。
(http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/4f01bc4d404b542b0f45b92e211b2e48)
映画『シッコ』から話が拡大してきましたが、この映画を見て私が思ったことは、
・社会保障(医療、介護)を営利企業に任せてはならない。この分野に関しては、少し社会主義的なぐらいがちょう良い。
・社会保障制度の改革を、今の日本の官僚に任せておいてはいけない。国民が知らないうちに机上の理論でとんでもない改悪をされてしまう。現場の関係者(患者と医療従事者)の主導で改革を進めて行くべきだ。
ということです。
皆さんも、ぜひ『シッコ』を一度ご覧になることをお勧めします。