院長のコラム

長らくご無沙汰してました

院長のコラムも最初は1-2ヶ月に一度の更新を目標としていたのですが、ついつい日常の忙しさでさぼってしまい、今年は5月からご無沙汰してしまいました。先日東京であった日本臨床眼科学会で、会場で会った数名の先生方から「最近更新してないね」というお叱りをいただきました。 たとえ少数でも駄文を読むためにアクセスしてくださる方がいる限り、もうちょっとマメに更新して行きたいと思っておりますので、今後もよろしくお願いします。

 

久しく間が空きましたので、まずは古江中野眼科でこの半年にあったことからお伝えします。

 

1) OCT (光干渉断層計)を新世代の機種に更新しました

当院では 2006 年から OCT を導入しましたが、 Carl Zeiss Meditec 社の OCT3000 という機種でした。この機種も開発初期の OCT から比べると、解像度がかなり向上し、その画像を初めて見たときには感動を覚えたものでした。 従来は眼の上にレンズをのせて細隙灯顕微鏡で思いっきり高倍率で、患者さんにはまぶしさを我慢してもらって、網膜でどんな病気が起こっているのか、 頭の中で想像力も駆使しながら 苦労して診断していましたが、2年前に OCT3000 を使い始めてからは、感動的なほどに微細な 網膜病変の 断層像が得られるので、私の日常の眼科臨床で手放せない診断補助手段になっていました。

ところが、本年になって各社から SD-OCT (Spectral-domain OCT) という新しい原理の OCT 装置が発売されてきました。一番の進歩は、網膜断層像を得るための走査スピードが今までの装置の 50-100 倍も早くなった点で、奥行き解像度も 5μm と飛躍的に性能がアップしています(「病院案内」のページをご覧下さい。まだ前の装置のリース期間も残っていたのですが、実際に使ってみると、この新しいテクノロジーの魅力には抗しがたく、早速に今までと同じ Carl Zeiss Meditec 社の ”Cirrus OCT” という SD-OCT 装置にアップグレードすることにしました。

いままでの OCT3000 でも最初は十分に感動ものでしたが、 SD-OCT になってみると、スゴい!!の一言でした。 従来の眼底検査法では決して見えなかった視細胞レベルの異常まで判ってしまうので、眼科診断学において病気の分類さえも今後 OCT によって変わって行くことでしょう 。ここ数年の OCT テクノロジーの進化を見ていると、まだまだ今後も発展して行くものと思います。多分十年ぐらいするともっと安くなって性能も進化し、末端の眼科クリニックまで普及して行くと思います。いずれは現在の細隙灯顕微鏡のように、 OCT なしでは眼科診療が成り立たないような存在になるでしょう。そのぐらい、インパクトのある機器です。

OCT を使い始めて、自分の診療が変わった点は、 "decision making" が早くなってきたことです 。 OCT 登場以前だと、『うーん、悪くなってるのかどうかはっきりしないから、もう少しこのままの治療で様子を見ようかな』てなっていたのが、 OCT で見るとごくわずかな変化が明瞭に判るので、『これは悪化してるから、すぐ次の治療の手を打とう』ってことになり、次に述べるアバスチンを使う場合も、迷うことが少なくなっていると思います。

 

2)アバスチン治療を始めました

加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、傍中心窩毛細血管拡張症、などの病気で血管内皮増殖因子( VEGF )と呼ばれる物質が病気の発症や悪化に関して悪さをする ということが判っています。 アバスチン (Avastin) は元々、転移性の大腸がんの治療のため開発された薬で、アバスチンはがん細胞が分泌する VEGF を遮断する効果があり、 VEGF が作り出す新生血管を抑える働きがあります。これによりがん細胞が成長するのに必要な新生血管の成長を抑えて、がんを兵糧攻めにして治療するという仕組みです。眼科領域では、非常に微量のアバスチンを眼の中に注射すると、上記のような VEGF が関係している眼の病気にもかなり効果を発揮することが判り、数年前から欧米や日本でも多くの大学病院、先進的な眼科病院などで VEGF 関連の眼疾患にアバスチンがどんどん使用され、学会でも良好な成績が数多く報告されてきました。

当院でも本年4月から、網膜血管の閉塞疾患による黄斑浮腫などを中心に、アバスチン治療を開始しました。 アバスチン自体は癌治療には保険適応がありますが、眼の病気に対しては健康保険適応外であり、「混合診療」禁止という原則がありますので、アバスチンの薬剤費や注射の手技代金は、すべて当院が負担して患者さんからはいただいていません 。最近、同じような VEGF 阻害薬で眼の病気用に作られた薬剤 (Macugen) がようやく日本でも認可されて保険で使えるようになり、今後もアバスチン類似の薬 (Lucentis) がまた発売される予定です。でも、メチャメチャ高価な薬なんですよね。アバスチンは元々全身疾患用に作られていて、眼の中に入れる量は非常に微量なので一本のアバスチンから何十人分の量がとれますから、一人当たりの値段がかなり安く治療できます。ところが、これが眼のためだけに開発しましたっていう薬になったとたんに、効果はほとんど同じはずなのに単位当たりの値段が 100 倍以上になってしまうんです。ですから保険使って自己負担が3割でもかなりの負担額になります。アメリカでもこの値段の差が眼科医の間では問題視されていて、アバスチンが正式に使えるように臨床治験をしたいという動きもあるようです(製薬会社は当然反対するでしょうから、難しいかもしれませんが、、)。

この種類の薬剤もまだまだ今後開発が進んで行きそうな分野です。いままで治療困難で大幅な視力低下を起こすことも多かった黄斑変性症などの病気が、治療によって回復が充分可能な疾患になる日がやってくるかもしれません。今後数年の進歩が期待される分野の薬剤です。

 

3)多焦点眼内レンズが使えるようになりました

前々回のコラムでも取り上げた『多焦点眼内レンズ』がいよいよ日本でも認可されました。最初は、回折型の Alcon 社の ”Restor” と、屈折型の AMO 社の ”Rezoom” でしたが、最近これに AMO 社の回折型 ”Tecnis Multifocal” が加わり、選択肢も増えてきました。 白内障手術で視力を回復させるだけでなく、老眼もついでに治してしまって、遠くも近くもメガネなしでも結構見えるようにする、という贅沢な眼内レンズです 。まだこれも完成された理想のレンズではありませんから、医学的に適応を厳しくしていかないと術後結果にご不満の患者さんも出てくるのですが、向いている患者さんを選べば、かなり満足度が高い結果が得られるとのことです。女性やスポーツ愛好者など、白内障術後に『できればあまりメガネをずっとかけていたくない』っていう人にはぜひ使ってみたい眼内レンズなんですが、やっぱりネックになるのは『保険適応外』っていうことです。 上にも述べた『混合診療禁止』のルールのために、このレンズを使うと、検査も手術自体も術後の目薬代まで、すべて健康保険が使えず全額自己負担 となるのです。最近、当院でもこのレンズの医学的適応があると思える患者さんには、説明するようにはしています。『メガネが術後はあまり必要なくなる』って言うと、興味を示される方も多いのですが、費用のお話をすると、ほとんどの方が『老眼鏡で近くも見えるのならそれでいいです』っていうことになります。将来はレンズ代だけの差額負担でで健康保険の枠内で使えるようになればいいと思うんですけどね(諸外国では多くはそうなってるみたいです)。

 

では、また今後も眼科以外のこともまじえて、コラムの更新を続けていければと思っていますので、よろしくお願いします。

facebookオフィシャルページ