院長のコラム

2008年を振り返って

2008年も終ろうとしていますが、今年も色々なことがありました。日本の医療の世界では、後期高齢者医療制度や、メタボ検診などが始まりました。また、今年に始まったことではないですが、医師不足、救急医療体制の問題が更にクローズアップされて、社会問題としてとらえられるようになってきました。

 

近年の医療制度改革を見ていると、どうしても失政ばかりが目についてしまいます。今までの私のコラムでも何回も書いてきましたが、小泉改革以来どんどん医療・社会保障関連予算が削られてきました。医療改革といっても、まず予算削減ありきで、後期高齢者医療制度も結局は高齢者医療費の削減が最終目標ですから、いくら表面上のことを取り繕ってみても、こんな動機が不純な制度が長続きするはずはないだろうと思っています。メタボ検診にしても、予防的に指導を行うことで生活習慣病を防ぎ、将来の医療費削減につなげようという意図だと思いますが、医療関係者の多くは、かえって見つけなくてもいいような軽度の異常を見つけて治療対象にしてしまうことで医療費が増加するのではないかと危惧しています。どうもこの大規模な検診制度は実験的な面が強く感じられ、検診にかかる膨大な費用の利権が絡んでいる匂いがすると感じるのは、考え過ぎでしょうか。

 

医師不足問題も最近かなりマスコミでも突っ込んだ議論がされるようになってきました。先日NHKで、医学生、医師、患者、行政の代表参加者が討論する番組をやっていて、興味深く見ていました。私も今までのコラムで書いてきたように、新研修システムの導入による医局制度のピラミッドの崩壊が医師の偏在を招いた主因であるということがやはり取り上げられていましたが、じゃあこの現状をどうするかと考えると、やはり医師の進路選択に関してある程度の強制配置システムは必要なんじゃないかと思います。番組に参加していた医学生や研修医の意見も分かれていたようです。医師の地域偏在を招いた新研修システムの問題点は認めながらも、新人医師の自由度、選択肢の幅が広がった点を評価する声もありました。一方で一人の医師を養成するために、数千万円のお金が実際にかかり、国立大学の場合はほとんど税金の投入で賄われているわけですから、ある程度卒業後の拘束年限があってもいいのでは、という意見もありました。実際に昔から、自治医大や防衛医大の学生は授業料や奨学金の見返りに卒業後の何年にもわたるお礼奉公が義務づけられているのですから、それを普通の国立大学の医学生に対象を拡大して、初期研修終了後の数年は卒業大学の医局人事での就職を義務づける、そのかわり数年したら全員がプロ野球のFA権のような権利を取って、再度マッチングをした上で、自由に好きなところへの移動を支援しますよ、なんてシステムを作ったらどうかと思います。

 

医療以外の世界で今年一番のニュースは、やはりアメリカのサブプライムローンから発生して広がった金融恐慌、世界不況でしょうか。年の瀬を迎えて、全国規模で大企業のリストラが問題となっています。しかしながら、社会全体で見ると、リストラや給与カット⇒消費者の購買力低下⇒ものが売れない、無理な値下げ⇒企業の収益悪化⇒更なる合理化、人員整理、という完全な悪循環に入っています。でも盛んに派遣社員のクビを切っている大企業が、株主には配当を出し続けている現状は、どうなんでしょうか。株価が下がると企業買収、乗っ取りのリスクがあるとの理屈で、株価を維持するために、まずはリストラからってのは、以前の日本的家族経営ではありえない経営感覚ではないでしょうか。小泉・竹中コンビが目指した新自由主義とはこんなものだったのでしょうか。

 

今後ますます加速してゆく高齢化社会で、医療・介護分野はある意味では成長産業です。介護ヘルパーなんかはものすごい量の潜在的需要があると思います。国が決めている介護報酬があまりにも安すぎるためになり手が少ないだけなんだと思います。先日の新聞で、来年から介護報酬3%アップ、なんて話が出ていましたが、そんな雀の涙ほどのアップで実際ヘルパーの方々の手取額が上がるでしょうか?せめて数十%はアップして(ただし利用者の自己負担が増えないように公的補助率をアップして)、若い失業者がこの分野で人材として活用できるように、雇用対策として考えてみてもいいのでは。2兆円も現金で全国民にばらまくよりも、よっぽど賢明な政策ではないかなって思いますけどね。

 

来年は総選挙がある年です。先頃どこかの首相が医師不足問題の意見を求められて、『自分で病院を経営しているから言うわけではないが、はっきり言って(医者には)社会的な常識がかなり欠落している人が多いと思われる。とにかくものすごく価値判断が違う。それはそれで、そういう方をどうするかという話を真剣にやらないといけない』と公の場で堂々と発言されました。私は、この発言をニュースで見て思いました。『はっきり言って、ろくに中学生レベルの漢字も読めない方に常識がないと言われても困る。(政治家は)我々とものすごく価値判断が違う。それはそれで、こういう方々(政党)をどうするかという話を、来年の選挙では真剣に考えないといけない』と。

 

来年こそ、明るい兆しが少しでも見えてきたらいいですね。みなさま、良いお年を。

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