院長のコラム

勉学の秋

コラムもさぼっているうちに、もう10月も終りかけています。今年は10月に入っても日中の気温が25度近くになったりしてましたが、この数日めっきり冷え込んで秋らしくなってきました。秋といえば、『食欲』、『スポーツ』、『読書』、『芸術』、落ち着いて何かに取り組むのに適した気候だからでしょうか、昔から『~の秋』っていうキャッチフレーズが多いですよね。

医学界では、『学会の秋』といったところでしょうか。2週間前には博多で8000人以上が参加して、眼科の世界では一番大きな学会である日本臨床眼科学会が行われました。これから12月にかけて、各県の地方学会や、専門別学会、小さな規模のセミナー、平日夜の勉強会など殆ど毎週のように目白押しです。先週の臨床眼科学会には私も参加してきましたが、最近の学会はいわゆる普通の発表、一般演題がずいぶん少なくなり、教育的なセミナー(インストラクションコースなど)が多くなってきました。参加者の多い学会を医師の生涯教育の場として役立てる、という意味では良い傾向だと思いますが、逆に初めて聞くような最新情報を大きな学会で入手するということがあまりなくなってきたようにも思います。

 

エビデンスのある確かな医学情報は、最終的には査読を経た医学雑誌上の論文という形で広まっていきますが、最近のインターネットの発達により、進歩の速度が早い分野のホットな情報は、海外のメーリングリストなどから入ってくることが多くなりました。例えば、数年前に白内障手術の分野で話題になったIFIS: intraoperative floppy iris syndrome(前立腺肥大でα—ブロッカーというお薬を飲んでいる患者さんの白内障手術中に、虹彩の緊張低下や縮瞳などの手術を困難にする現象が起こる症候群)などは、学会発表もまだない段階で米国の某先生がとあるメーリングリストで、『こういう薬飲んでる患者さんにこの現象が何例も起こった』と提起し、すぐさま各地の眼科手術医から『それ、オレのところでもあった!』という発言が数日のうちに相次ぎ、『今度学会でprospective studyしよう!』という話になり、あれよという間に多くの症例が集まって、内服薬の副作用による病態が解明されました。私もこのメーリングリストでのIFISのディスカッションをリアルタイムで見ていて、すぐに同じ薬を投与されている自院の過去1年の手術症例のビデオを見直して、似たような症例を見つけた時には『これが原因だったのか!』と興奮したのを覚えています。ただ、ネット経由の情報は早いだけに内容がいい加減な場合もよくあるので、情報の取捨選択にはその分野の基礎知識や“見る目”が必要となります。特に外国からの情報は、その発信者がどんな先生なのかをよく知らないために、どのくらい信頼性があるデータなのか、判断を誤ることがあります。その意味では、学会に参加した時に、顔を突き合わせて直接コミュニケーションする中で得られる情報は、情報源がどれくらい信用できるかの見当もつくので貴重です。

 

全国規模の学会にわざわざ遠くから参加する楽しみの一つに、夜の会合があります。年に数回しか直接会えない遠方からの先生、留学先で知り合って友人になった先生、昔の同僚医師、同期生などと小さなグループで会食、飲み会が夜な夜な開かれ、旧交を温め合うのが大きな楽しみの一つです。昼間の学会での講演やセミナーを聴いて勉強するのも大事ですが、夜の会合が意外と最新情報を得る上で有意義なんです。お酒が入って口が軽くなったところで、その道のエキスパートの医師たちに『昼間のセミナーではX先生がこう言ってたけど、ぶっちゃけ先生の施設ではどのくらい効果がある?』とか、『こういった症例には、先生のところではどういう手術テクニックを使ってるの?』とか、昼間には中々聞けないホンネ情報が飛び交うこともあり、この『夜の学会』の方が収穫が多い時もあります。このあたりが、いくらインターネットが普及したこの時代になっても、わざわざ泊まりがけで学会に出かけていく意義の一つですね。

 

今回の学会では同じYale大学に留学していた眼科医のお食事会もあり、いろんな地方からの先生方が参加されるので面白いのですが、各地の眼科事情を聞いていると驚くこともありました。東北のある公立病院に勤務されている先生から聞いたのですが、その地方では新人医師の新研修制度(このコラムでも以前に書いたことがありますが)が始まってから眼科医も極端に減少しており、某基幹病院ではなんと白内障手術の予約が2年待ちの状態になっているそうです。当院では現在3ヶ月待ちぐらいですが、それでも患者さんに驚かれることがあります。2年待ちなんていったら、見えにくくなってから手術申し込みしてるようじゃあ手術の頃には下手をすると失明状態で、手術までに転倒事故起こして余計に医療費がかかったり、全面介助が必要になったり、トータルで見ると社会的な損失も大きいと思います。政権が変わったばかりで制度変更もまだ時間がかかりそうですが、早くなんとか手を打たなくちゃ!って思います。

 

そんなわけで、今後も積極的に学会に出かけていきます。得られた最新の医学情報を、当院の患者さんへも少しでも還元できるように勉強を続けていきたいと思います。時々学会出張の折には外来の待ち時間が長くなったり、時には休診などもあるかもしれず、『院長はまた学会でお休みか!』と思われるかもしれませんが、何卒ご理解いただきたいと思います。

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