院長のコラム

白内障手術装置を更新しました

このたび、白内障の手術装置を次世代機種に更新しました。この新しいマシンについて使用し始めた感想を述べたいと思います。

 

当院では毎週木曜日に白内障手術を日帰りで施行しています。最近の白内障手術は、超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)という、濁って硬くなってしまった水晶体を眼内で砕いて3mm以下の小さな切開から吸い出し、折り曲げて小切開から挿入可能な眼内レンズ(人工水晶体)を入れる術式がほとんどです。私が眼科医になった頃には、まだこの術式は技術的に難易度の高い手術で、白内障が進行して水晶体核が硬くなったケースでは、切開創を今の3倍以上に拡大して水晶体核を丸ごと摘出する術式(ECCE)が主流でした。

 

それがここ20年くらいの間に、ほとんど100%に近い白内障手術がPEA+IOLで施行されるようになったことで、入院することもなく短時間で手術が出来、術後の視力回復も早い、患者さんにとっても我々眼科医にとっても、ごきげんな手術になりました。この小切開白内障手術の進歩の過程には、我々眼科医による手術術式の改良の努力だけでなく、眼内レンズの改良、手術に使用する薬剤や小道具の開発、そして何よりも超音波乳化吸引に使用する手術装置の進化が大きく貢献しています。

 

当院で使用していた白内障手術装置(NIDEK社:CV-24000)は2代目で、約10年前から使用しています。購入当時は国産メーカーの最新鋭機で、その性能の進化ぶりに驚いたものでした。各社ともこの世代のマシン以降、超音波の発振タイミングや吸引の圧や流量をソフトウェアで自在にコントロールできるようになって、自分の手術方法に合わせて装置の設定を自在にカスタマイズできるようになりました。当院でもソフトウェアを最新のものに更新しつつ、今まで不満なく使ってきました。発売から10年以上経っても、最新のマシンとそれほど遜色のない仕事をしてくれて、振り返ってみてもこのCV-24000というマシンは名機だったなぁと思います。しかし、さすがに10年経って、先日ハンドピース部分が故障したり、最近各社が次世代機種を次々と出してきたので、そろそろ新機種を導入しようかと思うようになりました。

 

そこで今回採用に到ったのが、AMO社のWHITESTAR Signatureです。AMOのWHITESTARといえば、先代のSovereignというマシンはそれまでの機械では避けられなかったチップの発熱などの欠点をミリ秒単位でon-offする画期的なmicropulse phaco.で解決した画期的なマシンでした(あっという間に他社にも真似されて、当院で使っていたNIDEK:CV-24000にも同様の機能が搭載されましたが)。その後継機であるSignatureですが、他社の機種との大きな違いは吸引系で、ペリスタルティック・ポンプとベンチュリー・ポンプの2つの特徴の異なるポンプを同時に搭載していることです。

 

ペリスタルティックポンプとは、チューブを回転ローラーで一定方向に“しごく”ことでチューブ内に液体の流れが生じる原理のポンプで、その“しごく”スピードで流量が決まりますが、そのチューブの先端が閉塞した時に初めて大きな陰圧(吸引圧)が生じます。それに対してベンチュリーポンプは吸入負圧(ベンチュリ効果)を利用したポンプで、チューブが閉塞される前から一定の吸引圧が生じます(イメージとしてはストローでジュースを吸い上げる感覚と理解しています)ので、液体の流量はポンプから生じる陰圧とチューブの太さで決まります。さらさらのお水を吸い上げるだけの目的であれば、両者のポンプにさほど能力差はないはずですが、白内障手術の場合は、眼の中で液体中に浮遊したり、眼の組織にへばりついている様々な硬さや粘度の固体(水晶体の中身)を水流とともに吸い出すためのポンプですので、ポンプによってその仕事に差が生じてきます。実際に使ってみた印象としては、水中に浮遊しているものを引き寄せてきて吸引するパワーはベンチュリーの方が勝っており吸引効率は良いのですが、吸い込みたくない組織(水晶体後嚢や虹彩)にチップ先端を高吸引圧設定のまま近づけるのはちょっと怖い。逆にペリスタルティックの方は、チップ先端が閉塞されるまでは吸引圧が上がって行かないので吸引圧の立ち上がりはベンチュリーより遅く、効率は落ちるが流量設定を低くしていれば、いらないものを吸い込む危険性は減るので安全性は高い、といった感じです。使いはじめの今の段階では、時間的な効率よりも安全性重視の私の術式では、核の処理が終って皮質吸引で主にベンチュリーを使用するのが快適ですが、今後はこの2つの違う方式のポンプをどのように使い分けて行くか、というのがこのマシンをフルに活用して行く上での課題でもあり、楽しみでもあるところです。さすがに最新機種だけあって、硬い核の破砕効率も今までの機種よりも断然良く、同じ術式でも平均の超音波発振時間は明らかに短縮されています。さらに近々”Ellipse”という、超音波チップが横方向にも振れて硬い核の破砕効率をアップさせるテクノロジーが搭載されるとのことで、まだまだ進化して行くシステムであると感じています。

 

Signatureを購入したのは広島では当院が第一号だそうです。何事も一番っていうのは気持がいいものですが、今後さらにユーザーが増えて使い込まれて行くことで、ユーザーからのフィードバックでソフトウェアのプログラムや設定条件がさらに洗練されて進化していくことに期待しています。

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