院長のコラム

眼科手術とビデオ:どうする、映像アーカイブ

一般的に眼科医にはAV好きが多いです。AVと言ってもアダルトでなく、オーディオ・ビジュアルの方ですが(笑)。私が京大眼科に入局した昭和60年には、まだ京大の手術室にはU-maticというばかでかいビデオ装置しかなく、研修医の手術なんかは録画させてもらえませんでしたし、最初の赴任先の病院にもビデオ装置はありませんでした。しかし、白内障手術などの顕微鏡手術では手術習得のための勉強にビデオ映像はきわめて有用で、急速に普及して今では録画装置のない眼科手術室はほとんどないと思います。研修医のころはコピーさせてもらった有名術者のビデオを本当にテープが擦り切れてしまうまで、毎晩繰り返し見て研究していました。開業してからも自分の白内障手術は全例録画・保存しており、もう習慣になっていますが、術後その日のうちに必ずすべて見直して、一人反省会をやっています。

 

昨年末に12年間愛用してきたビデオデッキが壊れました。広島に帰ってきて開業した平成10年頃に購入した、DVテープとS-VHSテープの両方が1台で再生でき、ダビングも出来るSONYのダブルデッキでした。20万円以上した高級機でしたが、毎週繰り返し再生などで酷使してきたためか、電源が全く入らなくなり、SONYのサービスマンに来てもらったのですが、『もう生産中止になって部品もなく、修理不能です』とのことでした(泣)。

 

このビデオデッキを買った当時は、ようやく家庭でPCを使ってのビデオ編集が普通に出来る時代になりつつありましたが、ハードディスクも今ほど大容量でなく、DVDもまだなく、VHSテープから取り込んでPCで編集したビデオ映像は再びテープに書き出して保存、再生するのが一般的でした。学会などでの発表も、PCで作ったスライドをポジフィルムに書き出して、スライドプロジェクターで映写していましたし、ビデオを使う口演ではVHSテープに書き出して学会に持参していました。ところが、ほんの10年で学会ではPowerPointなどでスライドを作り、直接PCからビデオプロジェクターで講演するのが常識になり、保存のための映像メディアも磁気テープからCD、さらにDVDへ、そしてブルーレイ(BD)へと急速に移ってきました。

 

実は当院の手術室の映像記録システムは、私が開業した当時のままです。検査機器や手術機械は出来るだけ最新機器に更新してきましたので、どうしても治療成績に関係のない設備は後回しになります。というわけで、いまだに木曜日の白内障手術の映像はS-VHSテープに3倍速で録画して保存しております。平成10年以来、ほぼすべての手術映像は180本を超えるS-VHSテープに保存されています。ところが、このS-VHSテープ自体が入手困難になってきました。広島では大手の電器量販店でも通常のVHSはあるもののS-が見当たりません。仕方なく、アマゾンのネット通販で時々まとめ買いしています。そして今回、4台ほど持っているS-対応のVHSビデオデッキもこのたび1台が壊れ、今や新品は入手できません。

 

まあ、進歩の非常に早いAV機器ですし、家電業界も次々に新しいテクノロジーを製品化していかなければ新しい製品が売れませんから、しょうがないのは判るのですが、この10年あまりのAV機器、コンピュータ周辺機器の大きな変化とそのスピードには正直、戸惑っています。今どき、場所を取るS-VHSが時代遅れのメディアなのは判っていますが、では次に何を選ぶのか。DVDが一般家庭で普及してきてから、まだ10年足らずではないでしょうか。そのDVDも今やBDに押されて、たぶん数年したら、今のVHSと同じ運命なのでしょう。今BDを選んでも、寿命が何年あるのか。再生機器がなくなってしまうと、過去から撮り貯めてきた手術映像のアーカイブもいずれ無駄になってしまいます。

 

民生用のビデオカメラも最近はハードディスクやフラッシュメモリーに記録、保存するものが多いようですし、今後はその方向へ行くのかなとも思いますが、費用もかかりますし、直接治療成績に影響するものではないので、悩ましいところです。そのうちに、もうディスクやメモリーなどのメディアに保存する事自体がなくなり、ネット経由でどこかのサーバーで管理っていう時代になってくるのでしょうか。誰か、将来に向けて良い案があったら教えていただきたいものです。

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