2024年12月27日
年に一回の更新がすっかり定着してしまった(笑)院長のコラムです。2024年は、ほぼコロナ禍も終息し、頻繁な新型コロナワクチン接種もされなくなってスタートしましたが、3年間のコロナ禍の最中には感染することなく耐えていた副院長と院長が、1月に立て続けに新型コロナウイルスに感染してしまいました。割と真面目にワクチン接種は受けていましたが、ウイルス株の変異スピードにワクチン開発のスピードがついていけてなかったせいもあると思いました。幸いなことに重症化する率もかなり減っておりましたので、数日で軽快して無事に復帰することができました。100年以上前に世界中で1億人以上の死者をもたらした「スペインかぜ」の時もそうでしたが、新型コロナウイルス感染も何度かのパンデミックを繰り返すうちにウイルス自体の毒性が弱まって、よほどの免疫力低下があるなどのリスクの高い方以外では、命の危険があるほどの重症化は極めて稀になっています。しかしながら、感染力そのものが弱まっているわけではないので、
高齢者や基礎疾患をお持ちの患者さんに感染が起こると重症化リスクもありますので、病院内ではまだマスク着用をお願いしています。今後当分の間も皆様のご協力のほどお願い申し上げます。
またこの年末は、インフルエンザ感染がとんでもないペースで増えていますので、病院外でもマスク着用をお勧めします。
2024年の古江中野眼科の話題では、1998年に現院長が引き継いでから開始した白内障手術が、累計1万件を超えました(2024年末の時点で、10,246件になりました)。開業初年度は、週に2件程度の症例数で始めましたが、徐々に口コミや他院の先生からのご紹介などで手術件数も増えて、現在は週にMAX 10-12件程度、年間400件以上の白内障手術を行うようになりました。
超音波乳化吸引装置を使う現在の白内障手術は、術式としてほぼ完成の域に達してきた感がありますが、徐々に進化し続けてきた手術機械に数年ごとに更新して、手術合併症率も最低レベルを維持することができていると思います。ここまでやって来れたのも、診断と説明に納得して手術を受けることを決断してくれた患者さん、支えてくれた職員や周囲の方々の理解と応援のおかげであると感謝しております。今後も、自分の向上心と手術スキルが維持できる間は続けていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。
2024年の日本の医療界全体に関わる出来事としては、まずは医療DXがあげられます。その第一歩としてマイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」が始まりました。この12月からは新規の紙の健康保険証の発行は停止され、マイナ保険証が実質的に義務付けられる形となりました。しかしながら、今年10月末時点で、マイナンバーカード保有者は全国民の75%、マイナ保険証として登録しているのは62%でした。当院でも、受付でマイナンバーカードを保険証として提示される方は、まだ半数にも達していません。ちょっと運用開始のやり方が不味くないですかね??当院の患者さんの多数を占める高齢者の中には、マイナンバーカードを持っていない、また保険証としての紐付けの意味、やり方が全く理解できていない方も多数おられます。プライバシー保護の観点から不安を感じて使っておられない方も多いです。マイナ保険証の意義は分かりますが、進め方があまりにも強引で拙速すぎるように思います。導入期には使う側にもっと
インセンティブを与えるようなやり方、例えばマイナ保険証を使って受診したら、窓口の自己負担が少し安くなるとか、逆に今まで窓口の自己負担がない方では紙の保険証では多少の自己負担が生ずるとか、早期に切り替えてもらいたければ、使う動機が必要じゃないかと思います。
もう一つ、この数年悪化の一途を辿る「お薬不足」問題に触れないわけにもいきません。この問題については、2021年の「院長のコラムーその1」に長々と書きましたので、ご興味がおありならお読みいただけましたら幸いです。
https://furue-nakano.com/?p=631
長年にわたって国が推進してきた医療費(薬剤費)削減政策、ジェネリック転換政策が完全に間違っていたことが明らかです。今年、日本製薬団体連合会(日薬連)が実施した製造実態に関する自主点検の結果、ジェネリック医薬品の8734品目中、4割超に当たる3796品目で製造販売承認書と異なる製造があったと明らかにしました。衝撃的な数字です。数年前まで某ジェネリック製薬会社のTVコマーシャルで、「ジェネリック医薬品は、先発医薬品と同じ内容で、同じ効き目で、値段が安い薬です」とか宣伝していましたが、同じ薬でないこと、同じ効き目でないことを自ら認めたようなものです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ad3538e950bd2d4b88e3956b18bc28080c8fabd8?fbclid=IwY2xjawHYMqdleHRuA2FlbQIxMQABHXp3laTOhnr53MeQJl26smPLLn3RGeJUGQOupatFK9i0MiCOa9MuSC6y7w_aem_U8GHeVYSc9q5khCfGJvP5g
それでもなお、厚労省はこの10月から「先発医薬品の選定療養制度」を強引に始めました。この制度がどういうことか説明すると、例えば当院では、今まで緑内障の方や手術直後の患者さんなど、点眼薬が万が一にも効き目が悪かったりしたら非常に困る、という方への処方箋には、先発医薬品を指定して「ジェネリックへの変更不可」のチェックを入れていました。これは多くのジェネリック点眼薬は、先発品とは防腐剤や添加剤の種類や濃度がまるで違っていても「ジェネリック」として認可されている、そしてジェネリックには大規模な臨床治験が全く行われていないので副作用や効き目のはっきりした臨床データがないということから、医師として100%の信頼で使えないという理由でした。10月からこの「先発品指定で変更不可」の処方箋が事実上ダメとなりました。処方箋には「一般名(成分名)」を記載して、薬局では薬剤師が「先発品にされますか、ジェネリックを選ばれますか?」と患者さんに選ばせて、患者さんが先発品を選ぶと今までの
1-3割の窓口での負担に加えて、さらに差額の25%を患者さんに支払わせなさい、という制度です。その新たなお金の負担が嫌なら、安いジェネリックを選びなさいということです。ジェネリック医薬品の4割が、届け出た正しい製造法で作られていないことが分かったのに、それでもジェネリックを強引に使わせようということです。患者さんの健康よりも、医薬品費を削ることしか、厚労省は考えていないのです。
お薬不足問題は、今までは内服薬が中心でしたが、2024年には点眼薬も不足し始めました。これも一部のジェネリック薬などが成分の問題などから自主回収や点検となって、同じ成分の点眼薬も急に増産ができず、全体量が確保できなくなったためです。日常的に頻用するステロイド系の消炎剤点眼や、ドライアイの点眼薬がいまだに出荷調整の対象になっていたり、ものによってはジェネリックが欠品して先発薬しか入手できなかったりすることもあります。他にも、抗生物質の内服薬、局所麻酔薬や消毒剤、ありとあらゆる分野のお薬が不足して、ここ数年一向に改善の兆しが見えません。詰まるところは国がコントロールしてきた薬価が安くなりすぎているためです。製造工程の問題を指摘されても、薬の公定価格が安すぎて、製薬会社も巨額の投資をして工場のラインを新設したりできない状況になっているわけで、解決法はそれに見合うようにお値段を上げるしかないでしょう。医療業界は、価格が完全に国にコントロールされており、原材料費や光熱費の原価、人件費も上がり続けている昨今でも、国からは「お前ら、まだ余裕あるんじゃないの?」とでも思われているのか、薬、医療の値段は下げ続けられています。もう、そろそろ我々の業界の努力も限界じゃあないでしょうか。日本が誇っていた健康保険制度崩壊の足音は確実に近づいてきてます。
2025年もあまり良いニュースが期待できそうにありませんが、ちゃんとしたリーダーシップを取れる政治家、医療界全体を俯瞰して財源をコントロールして、現実的な医療立て直し政策を立案できる官僚の出現を心から待っています。