院長のコラム

2021年を振り返って – その1

もはや年一回のみが恒例となってしまっている、院長のコラムの更新です。
今年を振り返ってみると、2020年に引き続いて、新型コロナウイルスに振り回された1年でした。

 

緊急事態宣言の発出で始まり、2月から医療従事者にワクチンの先行接種も開始されました。当院でも、5月までに全職員のワクチン2回接種を終えることができました。ワクチンに関しては残念ながら、1年延期した東京オリンピックまでには国レベルではワクチン接種完了率が低く、観客を入れての五輪開催はかないませんでしたが、幸いだったのは日本で使用されたファイザー社、モデルナ社のmRNAワクチンの出来が非常に良く、予防、重症化阻止の効果が高いワクチンだったことで、ワクチン接種済率が上がるにつれて、秋口から感染者、重傷者数が激減してきたことでした。

 

コロナ対策やワクチン接種に関しては、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身先生や公衆衛生の専門家の先生方、菅首相が批判に晒されたことも多々ありましたが、今振り返ってみると、日本政府は試行錯誤しながらも、かなり良くやったと言えるのではないでしょうか。諸外国に比べて、ワクチン接種のスタートこそ遅れを取ったものの、1日100万回接種などと到底不可能に思えたオペレーションを見事に達成しました。我々医師も集団接種には積極的に協力し、私たちの施設でも広島市の集団接種に院長、副院長、看護師を複数回派遣してお手伝いしました。

 

新型コロナウイルスの変異株は次々と出てきていますが、海外ではまだまだ患者数が増加している国も多い中、12月始めには日本国内は非常に落ち着いた感じになっていました。ワクチン接種率の向上だけでなく、何度も緊急事態宣言やまん延防止措置が取られて不要不急の人流をかなり抑えたこと、国民の中に「3密を避ける、マスクを常用する、消毒をする」などの防疫意識が根付いたことも大きかったと思います。年末になって、日本にもオミクロン株の市中感染がいよいよ始まった感じがしてきましたが、幸い現状わかってきた知見では、デルタ株よりは弱毒のようですので、警戒を緩めずに行けば、医療逼迫を起こさずに乗り切れるかもしれません。3回目のワクチン接種、感染予防行動の継続など、できることは全てやって、なんとか2022年で新型コロナウイルス禍を収束させたいものです。まだ医療体制が未熟であった20世紀初頭に世界的パンデミックで猛威を振るった「スペイン風邪」も3年程度で収束した歴史もあり、そろそろウイルスの弱毒化と免疫獲得でこのまま落ち着いていくことを祈る限りです。

 

もう一つ、医療界のニュースとしてぜひ触れておきたいのが、今年の後半になって一段と深刻になってきて、いまだに解決されていない「医薬品不足問題」です。騒ぎの発端は、ジェネリック(後発品)医薬品メーカーの不正発覚でした。2020年12月、小林化工が製造した抗真菌剤(爪水虫の内服薬)に全く違う睡眠導入剤が誤って混入されて流通し、2名の死者、15人が交通事故にあったりする事件が起きました。若い社員が製造工程のルールを守らず夜中に「ワンオペ」で作業して間違えたのが原因と言われていますが、立ち入り調査の結果、他の180品目以上でも承認書通りの製造が行われていなかったことが判明し、業務停止命令が出されました。この後、ジェネリック医薬業界では最大手の一つである日医工も同じGMP(医薬品の製造管理と品質管理に関する基準)違反で業務停止命令の処分を受けました。6月から厚労省が全国のジェネリックメーカーの工場に一斉に立ち入り検査を実施し、GMP違反で摘発される製薬会社が相次ぎました。

 

この結果起こったのが、多くの製薬会社が自社の薬を自主回収する動きを強め、製造も見合わせるようになってしまったことでした。この「出荷調整」により、かなり多種類の薬(心不全の治療薬や、コロナ感染症にも使われるステロイド剤、骨粗鬆症の治療薬、抗凝固剤、麻酔薬などなど)が入手困難となっています。国がジェネリック医薬品へと誘導して、先発品の生産量が既にかなり減っていたり、先発品がすでに製造されていなかったりで、今回の問題が出たからといって、すぐに代替品が用意できないので、患者さんが処方箋をもらったのはいいけど、どこの調剤薬局に行っても「その薬の在庫はありません」と言われる事態が実際に起きています。ジェネリック薬は、先発品の特許が切れた後で発売される医薬品で、売れ筋の薬の場合は特許が切れた翌月に10社以上が一気に発売することも珍しくないのですが、今回の事態を見ていると、いかに多くの製薬会社がルール違反の製造方法で作っていたか、そしてそのような薬剤が「成分は同じで、値段が安くなった良い薬」と宣伝されて患者さんに渡っていたこと、考えるだけで背筋が寒くなります。

 

これはすべてがジェネリック医薬品メーカーの会社だけの責任でしょうか?全国で医薬品が不足、入手困難になる程、不正行為を働く悪徳会社ばかりだった? そうではないと私は考えています。メーカーに対してはとにかく薬価を下げ続けて、「もっと安い薬をつくりなさい」と指導し、医者には「先発品を使わずに、ジェネリック医薬品を患者さんに処方しなさい。そうすれば処方箋料を高くしてあげます」と餌をぶら下げて誘導し、患者さんには「あなたが使っているこの薬をジェネリックに変更したら、年にこれだけ支払いが安くなります」と保険者から個別に通知を出させてジェネリックに誘導した、国の責任が一番大きいのではないかと私は怒っています。

 

ジェネリック医薬品に関しての問題点は、この院長のコラムにも15年も前に取り上げたことがあります。「安ければそれでいいのか?品質や安定供給を含めた安全性は担保されているのか?」、当院ではこれらの疑問が解消されたと考えられる品目のみジェネリック医薬品を処方してきました。幸い、眼科での処方の多くを占める点眼薬までは、今回の問題は波及してきていないようですが、問題がないとはとても言い切れないと考え、緑内障や手術後の患者さんなど、「絶対に薬が効いてもらわないと困る」ケースでは、極力先発品を処方する方針で今まではやってきました。以下に、過去のコラムへのリンクを載せておきます。だから言わんこっちゃない!!っていうのが、私の正直な感想です。

 

https://furue-nakano.com/?p=176 (2006年2月)

https://furue-nakano.com/?p=229 (2007年5月)

 

不思議なのは、コロナウイルス関連ニュースにはどんな怪しい情報にも飛びつくマスコミが、この深刻な薬剤不足問題を大きく報じていないことで、医療界的には大問題なんですが、一般の国民には広く知られていないのではないでしょうか。ジェネリック医薬品メーカーが大々的にテレビコマーシャルなどの多額の宣伝費を提供しているスポンサーだから?でもこれは最終的には、高度成長期には院外処方へ誘導し続けてきて、医療費が膨らんできたら今度はとにかく安いジェネリックへと誘導してきた国の政策の失敗ですよ。マスコミの皆さん、ここで沈黙していてどうする!

 

来年の暮れにはコラムに楽しいことがたくさん書けるように、明かりが見え始める2022年であることを祈念して今年の締めとしたいと思います。

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