2012年12月31日
今年も数日を残すのみとなってしまいました。振り返ってみると、この『院長のコラム』も今年は2回しか書いていないという過去にない、さぼり具合でした。
まあしかし、コラムの更新をさぼっていたのには、今年は色々と忙しかったことも理由の一つではあります。前回のコラムにも書いたのですが、今年は開院50周年の節目だったのですが、創業者である父が6月に亡くなったこと、また仕事の面でも昨年10月から手術日を増やしたため、白内障手術数が増えてやや多忙となったということです。
おかげさまで今年の当院での日帰り白内障手術は、年間トータルで514眼でした。一昨年が344眼、昨年が407眼ですから、この2年でかなり増えました。(https://furue-nakano.com/eye/?page_id=128)
手術を申し込まれてから実際の手術日までの待機期間も、ようやく2ヶ月を切る所まで短縮することができて、ようやくこの面での患者さんからの苦情も減らすことができました。今後もどんどん進んでくる高齢化社会で、65歳以上の方もまだまだ労働力として社会に必要とされていますし、白内障で視力低下を来す方が増えてくる中、むしろ今までよりもさらに高齢者の視力を維持するというニーズが増してくると思われます。今後も当院としてできる社会貢献として、高齢者の眼科医療に力を入れて行きたいと思っております。
私も眼科術者としてのキャリアが25年を超えましたが、年間500例を超える白内障手術を行うようになって、最近また『白内障手術は奥が深い』と改めて実感しています。当院のHPにも記載していますが、手術をたくさんやっていると、手術中の合併症というものも避けては通れません。この数年は手術装置や器具、薬剤の進歩で後嚢破損や硝子体脱出といった合併症の頻度も大きく低下してきていましたが、症例数が増えてくると全くゼロというわけにも行きません。白内障手術のような日常的に数多くなされる手術において、手術施設(あるいは術者)によって結果に差がでるとしたら、誰がやっても手術が難しい眼の状況での合併症発生率、そしてもし合併症が発生した時に如何に上手く処理できるか、視力をそれによって落とすことなく安全に終われるか、という点だと思います。今年は3年ぶりに後嚢破損を経験し、9年ぶりに硝子体切除も行いました。久しく術中合併症がなかったので、突然発生する合併症に対する対処に不安を感じること(滅多に使わない手術器具がパッと出てくるか、などのスタッフの訓練も含めて)もありましたが、幸い合併症発生時にも、きちんと対処、処理することで今年も患者さんにご迷惑をおかけすることなく結果を出すことができて、ほっとするとともに、自分の手術に自信を深めることもできました。
白内障手術においては、現在の超音波乳化吸引術が開発されて以来、根本から手術方式を変えてしまうような大発明というものがなかったのですが、この数年で次世代白内障手術の主流になるかも?という新しい技術が見えてきました。Femtosecond laserという手術装置ですが、今までLASIKという近視矯正手術で角膜フラップ切開に使用されていたレーザー技術をさらに発展させて、白内障手術の大部分を眼にメスで切開を加えることなくやってしまおうという技術です。今のところはまだ実験的な段階で、現在の洗練された超音波乳化吸引術を凌駕するには至っていませんが、この数年の進化で将来像が見えてきた印象があります。レーザー装置の改良やコスト面で、一般に普及して行くにはおそらく10年以上はかかるかもしれませんが、久々のブレイクスルーという感じです。眼科手術の過去の歴史を見ても、一つの大きなブレイクスルーがあると、さらに周辺技術の進歩を引き出す面がありますので、眼内レンズの改良などでさらに低侵襲で安全な手術が開発されてくる可能性もあると思われます。
出来れば私が現役で手術ができるうちに、上記のような新しい技術が実用化されて来ないかなと楽しみに感じてはいますが、その反面、新しい技術にはお金もかかります。ただでさえ医療技術の進歩と人口の高齢化で医療費がうなぎ上りの昨今、これからはコスト面が医学技術の進歩の足かせになっていくのではないかとも危惧されます。
今年を振り返っての、医学分野でも大きなニュースはやはり山中先生のiPS細胞技術に対するノーベル賞でしょう。自然科学分野では、日本の過去の受賞者は、東大よりも京大関係者の方が多いのですが、やはり京都大学の風土にこのようなユニークな研究の芽を摘まずに育む雰囲気があるのでしょう。私も京都大学医学部で大学院の4年間を過ごした末端の一員として誇らしい感じがしました。
山中先生も受賞後のインタビューなどで強調されていましたが、iPS細胞の技術は患者さんにその恩恵が還元されて初めて意味を持ちます。その意味で、再生医療への応用が期待されますが、今のところ、最初に臨床医学の場でiPS細胞が使われそうなのが眼科分野です。来年(あるいは再来年にずれ込むかも)にも世界で初めてiPS細胞を患者さんに移植する、加齢黄斑変性に対する治療が神戸の理化学研究所の高橋先生のグループによって計画されており、注目されています。最初の試みですから、まだ安全性の確認といった意味合いが強いのですが、今後の無限の可能性を秘めた医療技術の第一歩として、大いに期待されるところです(高橋先生とは京大眼科で一年違いで、大学院生時代に同じ研究室で机を並べていたこともあり、また手術が計画されている神戸中央市民病院眼科に私も勤務していたこともあって、この臨床治験にはおおいに注目しています)。
さて、今年は年末の総選挙で再び政権交代が起こり、安倍首相の再登板となりました。私は個人的には安倍さんの政策、主張に共鳴する部分が多く、また一度首相を経験されて、あのような結果に終わって挫折を味わってからの再登板、という意味でも多いに期待しています。まずは日本経済を立て直さないことには、震災復興や医療・社会保障改革もままなりません。安倍首相には今度こそ長期政権で、物事が決められる、突破力のある政治を行って欲しいと希望します。
来年こそ、日本に光がさしてくる一年になって欲しいと思います。(できれば広島カープにも、もう少し希望の光が見えてくるといいのですが、、、)